三寒四温。
日射しに、春の気配を感じる頃となりました。
お元気ですか。
今日は、アルベルト・フランツ・ドップラー(1821−1883)
による、フルートとホルンとピアノのための作品
《Souvenir du Rigi(リギの思い出)》について書く徒然。
* * *
曲の後半現れるグロッケン(鐘)の、呑気なC音に、思い出したこと。
ロマン派時代のヨーロッパ、都市に住む人々は田舎の暮らしに憧れ、
貴族の奥方も、乳搾り女風のコスプレをして農婦な午後を楽しんだとか。
(かのマリー・アントワネットも、プチ・トリアノンの可愛らしい
農場で、野菜を作ったりして遊んでいたそうです)
自然に対する憧憬は、都会のオシャレな暮らし(サロン)のお約束で、
それは現代とあまり変わらない感覚にも思われます。
フランツ・ドップラーは、フルーティストとして当代一の名手と
謳われた演奏家であり、作曲家でもありました。
弟カールも名フルーティストで、兄弟揃っての演奏会は大変な
人気だったそうです。

左が兄フランツ、右が弟カール。
19世紀の超絶技巧兄弟デュオ。かっこいい。
もちろんこの甘やかな小品も、サロンでの大変な人気曲。
「ここに集う紳士淑女のハートは、全てわたしのもの」
フルートの旋律は徹頭徹尾、この精神に貫かれているように
私には感じられます 笑)
だからこその、魅惑。
ああ、19世紀ロマン派。
ピアニスト・フランツ・リスト(1811−1886)とほとんど同時代、
と思ったら、なるほど。
ドップラー兄は、リストの《ハンガリアン・ラプソディ第2番》の
オーケストラ編曲を手掛けていました。
今は主にフルート作品で名を残しているドップラーですが、生前は
オペラやバレエ音楽など舞台音楽の作曲家として有名だったそうで、
ここにも、ロマン派音楽界のアトモスフィアを感じます。
うっとり。
ちなみに Rigi とは、スイスの山の名前。
19世紀からすでに王侯貴族、文化人が憧れ、訪れたという
(鉄道もまだ引かれていないのに)、
こちらも人気のリゾート地。
人気者が、人気のリゾートを歌う、奏でる。
現代もこういう曲、たくさんありますよね。
(…ありますよね、と言いつつ。
ワタクシ、世代的にはジェネレーションXなので、日本における
20世紀後半、スキー場で流れに流れたあの曲とか、または演歌の
こんな曲、と浮かびますが。
そういえば、今世紀はどうなんだろう。)
こういう曲は、心底なりきって演奏するのが楽しい。
指先からタイム・トリップ、なのです。