「バッハってね。私にとって、なんだか不思議な人なんだ。」
レッスンを終えた生徒さんが、何気なく言った言葉。
しみじみと、しあわせな思いが胸にひろがりました。
彼女はバッハを、温かく血の通った人間として確かに感じている。
私が気づくのにずいぶん遠回りした感覚を、彼女はもうつかんでいる。
「音楽って、楽譜のことじゃないみたい。
音楽って、練習のことでもないみたい。
じゃあ、音楽ってなんだろう。」
コンクールや競争とは、一切無縁のレッスンでした。
それは私の、ピアノ教師として力の足りない部分でもあります。
ただ、その時その時向き合う作品に、ちゃんと心を寄せること。
そんなレッスンの時を積み重ねてきて、彼女とはもう、10年になります。
ありがとう。
これからも、また涙の浮かぶようなピアノを聴かせてください。
私も、伝えられる全てを、大切に手渡していきたいと思います。
* * * * *
私はと言えば。
近ごろ、学生時代に観た映画をあれこれ、DVDで再鑑賞している。
特に意識した訳ではないのだが、気がついたらそうなっていた。
「そこに何かが眠っている」と、直感のささやき。
自分のなかに起こるタイム・ラグというか、なんというか。
これが、実に興味深かったりする。
ありふれた言い回しだが。
私は、矢のように走る瀬のなか適当に浮かび流されながら、
ほんの少しのことをほんの少しずつ手に入れて、
とてもたくさんのなにかをなくしながら生きているようだ。
なにをなくしたのか。
今それを知れ、今それを探せ、とでもいうのかしら。
そしてこの感覚もまたみな全て、指から音に変わる種になる。
2009年06月18日
つみかさなっていく時
posted by K10 at 01:57| 日記
